聖なる森のワンポール

ホウリーウッズ久留里キャンプ村

 

JR新橋駅の烏森口の改札を出て右手に歩くと、飲み屋さんが軒並み連なる「西口商店街通り」がある。
その通りを、酔っ払いの千鳥足でフラフラ歩いても、新橋駅から数分で「立地(リッチ)ビル」にたどり着く。

新橋の居酒屋でさんざんクダを巻いたおじさんたちが、このまま帰りたくねーやと駅前で回れ右をし、最終電車の時間を気にしながら、そそくさと立地ビルに向かう。気分だけはいつもリッチ。
彼らのお目当ては、ビルの2階のスナック「ワンポール」のママ「椚(くぬぎ)まき子」である。「まきちゃ~ん、くぬぎのまきちゃ~ん」と、ママの笑顔に癒されたい一心で、くたびれたおじさんたちが、ぞろぞろとワンポールのドアを開ける。

 

ワンポールは、店内を取り囲むようにテーブルが配置され、それに背を向けるかたちでカウンター席がある。メタボな客を数人並べると多少窮屈に感じるカウンターは、いつも、長年通い詰めた旧い常連客の止り木になっていた。

 

今夜のワンポールのカウンターでは、むかし「山の下は渓谷」という月刊誌の編集長だった、通称「校長先生」が、キャビンのスーパーマイルドをくゆらせながらひとりで飲んでいた。

 

 「ごめんなさい、先生。おひとりにさせちゃって。ちょっと騒がしいわね」と、ママがため息をつきながらカウンターに戻ってきた。うしろでは、おじさんたちが、ヤーレンソーランヨーと吉幾三の「酔歌」をコブシをきかせて歌っている。
  

「今日もにぎやかだね。そういえば最近カワセミくんに会ってないけど、ここには来てるかい? だいぶ冷え込んできたからね、薪を燃やしにキャンプに行ってるのかな」
 

「ええ、昨日メールありましたわ。キャンプには行ってるみたいですね。ウチにはご無沙汰ですけど。先日の土日に行かれたみたいで、確か千葉にある、聖なる森でキャンプをしてきたって書いてありましたわ。とても暖かい日だったのでストーブが使えないってぼやいてました。不思議ですね、暖かい方がいいに決まってますのに、ホホホ」

 

「ほお、聖なる森か。HOLY WOODSだな」

 

 

「そうそうホウリーウッズ。そう書いてありましたわ。それで聖なる森ね。おしゃれなネーミングですわね」

 

「いまの時期は、クヌギやナラの落ち葉が、雪のように積もっているだろうね。どちらかと言うと、ナラの葉の方が多いのかな」

 

 

「あっ、先生、昨日大宮のムーミンさんがいらして、先生に久しく会っていないなとおっしゃってましたわ。

常連の皆さま、いつも日替わりで。ま、カウンター席が少ないからお店としては都合がいいのですけれど、ホホホ。

それで、ムーミンさん、最近日曜日に、ご自宅のお庭で燻製をお作りになってるんですって。

つまみにどうぞって、置いていかれたんですけど、お食べになりますか。カマンベールとナゲットの燻製」

 

 

「へえ、燻製作りか。ほお、なかなか美味しそうだね。じゃあ、ひとついただこうか。

うん、酸っぱみもなく、いいつまみになるね」

 

「ええ、風乾をきちんとやって、熱燻で15分ですって。

とても簡単に出来るっておっしゃってましたわ」

 

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今回、久しぶりに、スノーピークのスモーカーを使った。

バーナーはユニフレームのテーブルトップバーナー。

カマンベールは、コンビニに「切れてる」シリーズしかなかったので、それを購入。ナゲットもコンビニのレトルト。

スモークチップはサクラをひと掴み。

燻煙が出始めたら弱火にして熱燻15分。

 

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「カワセミくんは、ちゃんと食事しているのかな。いつもラーメンと肉のイメージだからな(笑)」

 

「キャンプでは、ダッチオーブンで鍋ばっかりやっているみたいですよ。でも、ちゃんと野菜を摂ってるのかしら。

コンソメとベーコンとトマトジュースで、トマト鍋なんかいいと思うのですけど、野菜をたくさん入れてね」

 

 

「日曜日といえば、朝方雨が降ったね。1mm程度の予報だったけど、けっこう強かったな」

 

「あ、そうですか。あたしはぐっすり寝てましたわ。先生はいつも朝方まで原稿をお書きなっているからご存知ですわね。

メールには雨について何も触れてませんでしたから、大丈夫だったんじゃないですか」

 

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確かに、雨音で目が覚めてしまった。予報がはずれるかなと期待していたがみごとにあたった。でも、小雨の予報ははずれた。けっこう強い雨脚。

ちなみに、この土日の泊り客は、自分とバイクのソロキャンパーの二人。キャンセルが何組か事前にあったらしい。

 

 

雨が上がったのは日の出頃。その後はしだいに晴れたので、何とかテントを乾かすことができた。

 

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「さあて、もうそろそろ帰るかな。カワセミくんとムーミンさんによろしく。ムーミンさんに、また燻製作ってと伝えて(笑)。

帰る前にちょっとトイレに行ってくる」

 

「はい分かりました。ちゃんと伝えますわ。

あ、キャンプ場のトイレってどうなんでしょ。カワセミさんが、冬になると水道が凍結するので水が出ないよなんて、以前おっしゃってたわ」

 

「ま、場所によるでしょ。それと、最近は女性キャンパーも増えたから、清潔にもなっているんじゃないかな」

 

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ホウリーウッズのトイレと炊事場。トイレは簡易水洗式。

炊事場は、お湯は出ないようだ。ま、自分はお湯を利用したことがないのであまり関係ないが。

 

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校長先生が帰った後のワンポールのカウンター席は荷物置き場になってしまった。新たな団体客が来店したためだ。

時間はもう23時。女の子たちは、シンデレラのように、0時になると一斉に退店する。これからが、まき子ママの腕の見せ所。

酔ったおじさんたちを、翌日後悔させないように、何とか、帰宅の方向に気持ちを向かわせなければならない。酔客を納得させるのはけっこう至難なことだ。

 

閉店まで、残り1時間のワンポール。おじさんたちの大好きな「サライ」の歌声が響けば、もうじき終宴だ。

 

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